前回、新型インフルエンザという危機への対策について触れたが、わが国で最も恐ろしいのは大地震である。
最近も震度5強といった大きな地震が列島各地で起こっている。発生場所はこれまで余り地震とは縁がなかった地域である。阪神淡路大地震もそうであったが、日本列島全体が地震の巣の上に乗った構造をしているから、長い間、地震に見舞われた記録がない、あるいは近くに活断層がない地域でも油断はできない。活断層は地表近くに見える部分でしか確認できないのかもしれない。
被害に遭われた人々は誠にお気の毒であるが、全体では大きな被害にはなっていないようである。火災が発生しなかったのに加え建物も強くなっているのであろう。住宅が密集する場所でなかったことや、発生時刻や気象条件も原因していると思われる。しかし、震度6以上の大地震が東京圏に起こる場合にはそうはいかない。
平成15年にミュンヘンの再保険会社が公表し、わが国の防災白書にも引用されている「大都市の自然災害に関するリスク」(右図)によると、東京・横浜の危険度は世界主要50都市の中で突出して高い。ここでは、各都市の自然災害リスクを、次の3つの評価数値を乗じて算出しているという。
(1)地震や台風等の自然災害の発生危険性
(2)住宅の構造や密度、都市の安全対策等の脆弱性
(3)危険にさらされる経済価値
東京圏は他の大都市に比較して大地震の発生リスクが高いだけでなく、木造住宅が密集する地域が多い。また、1箇所でも不通障害になると大きな影響を及ぼす電気や交通システムに大きく依存している。更に世界第2の経済大国の中枢であるので、大地震発生時に世界経済に与える影響は格段に大きいのである。
我々もこれらの各事実を頭で理解することは容易である。しかし、それらが掛け合わされて起こる大災害の恐怖や影響については実際に体験したものでなければなかなかわからない。平時には想像できないことが次々に起こるからである。
阪神淡路大地震では、地震発生直後に起きた火事の件数は決して多くはなかった。しかし、それが拡大して大惨事になったのは家屋が倒壊し道路が遮断されたため、消防車が火元近くに行くことができず人命救助や消火活動ができなかったからである。
カンバン方式に代表される余剰在庫をもたないシステムから電車のダイヤに至るまで、平時に最も効率的に機能するシステムは、大地震のような災害時には脆弱である。一箇所でも問題があると全てがストップしてしまう。普段、電車が長時間立ち往生してもじっと待つことはできるが、自分や家族の生命にかかわる事態では群集がパニック状態に陥ることになる。
大地震への対策は、地面が動くことを経験したことがない西欧の人々からは決して教わることはできない。都心3区や臨海部への一極集中が一段と加速する昨今、我々の未来は果たして大丈夫なのだろうか? (5月2日)