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ホーム > コラム > 211.「若者はなぜ3年で辞めるのか?」
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    211.「若者はなぜ3年で辞めるのか?」(4月18日)

もと富士通の社員で現在、人事関係のコンサルティングをしている城繁幸さんの著書タイトルである。

本書は日本型の人事システム、特に、年功序列型システムの矛盾を若者の立場から鋭く指摘している。かつて「気楽な稼業」と歌われたサラリーマンはもはやそうではない。その列車のチケットを手に入れれば、あとは定年のゴールまで延びていたはずのレールはすでに途中で切れているのである。しかし、運よくそれに乗ってこられた団塊世代の上司たちは、自分たちに有利な年功序列システムを基本的には変えようとしない。いずれは自分たちと同じようになれるという幻想を若者たちに持たせながら、単純作業を夜遅くまで押し付ける。鉄道レール

しかし、定職についている者はまだいい方である。就職氷河期に運悪く卒業を迎えた若者たちは能力開発の機会も与えられないワーキングプアにとどまっている。最近の報道によると、ケータイで日雇い仕事の連絡を待つ若者達はネットカフェに寝泊りし、公衆トイレで洗顔をするという。喧嘩し家を飛び出したから簡単に故郷に戻れないなどの個々の事情もあるだろうが、ただでさえ少ない若年労働力だけに「もったいない」の一語である。当然ながら結婚して家族を養うことは不可能だから、次世代が更に細っていく。

 一方、地方では人手がたりず田畑は荒れ果てている。若者の力がのどから手がでるほど欲しいのである。このアンバランスは政治が悪いということになるのだろうが、もとをただせば我々の民意が反映されているだけ。  今の若者はやる気がない、夢がないというが、そのようにしているのは親の世代の責任が大きい。社会福祉予算の配分も企業の年功序列型システムも圧倒的に人数の多い団塊世代向けにできているのである。

とはいえ若者の側も冷めている。お互いはケータイやPCでつながってはいるものの、個々人は孤立しているように見える。団塊世代の学生時代には学園紛争があった。そこでは安保などの政治問題だけでなく、カリキュラム問題や安易な学費値上げ反対など身近な問題も議論したものである。そして、不条理という言葉がやたらにはやった時代であった。

最近フランスでは、若者の雇用を更に危うくしかねない法案に反対する暴動が起こったとのこと。ワーキングプアが増加するわが国でも環境は似たようなものかもしれない。いっそのこと、若者党でも作ったらどうだろうか。投票にいかないのは投票したくなる候補がいないからに違いない。ネットの時代だから、主張をネットに掲げて「若者よ、投票に行こう」と訴える運動が起こって不思議はない。

若者が希望を持って働ける世の中になるように我々はもっと真剣になるべきだ。この本は、人材のみが豊かな資源であるはずのわが国に大きな問題を提起している。しかし、本書には閉塞感が充満する現状の説明が中心で解決策がほとんど書かれていないから、当の若者たちが読むとますます暗くなってしまうのではなかろうか。(4月18日)