ディズニーランドにある乗り物ではない。米国(の一部)で真剣に考えられている宇宙と地上を結ぶエレベーターのことである。
宇宙に脱出するには莫大なエネルギーとコストを必要とする。現在、1キログラムを持ち上げるのに2百万円位の費用がかかるので、最近、20億円とかで募集されたという宇宙旅行の値段もけっして法外とはいえない。使い捨て型のロケットは、とにかく莫大なエネルギーを使うのである。空に向かってボールを投げ上げることを考えれば、地球重力に逆らって物を打ち上げる大変さが想像できる。一方で我々は、何十キロという自分自身を、毎日、地上百メータの高さに持ち上げ、あるいは地下奥深くに運んでいる。それを可能にしているのはエレベーターやエスカレーターという便利な乗り物である。
そこで、宇宙、より正しくは地上3万6千キロの上空にある静止軌道にまで届く、絶叫マシンのような乗り物ができれば、往復のエネルギーは格段に少なくてすむに違いない。これがスペースエレベータである。
このエレベータは大変な重さになることから、それを遠心力で上向きに引っ張りあげてくれるように、静止軌道より更に上空におもり(カウンターウエイト)がついている。
それではこれをどうやって作るのだろうか。高層ビルの建築、あるいは積み木のような形で積み上げていっても、自重に耐えられないのは誰しも想像できる。
そこで考えられている方法は次のようなものである。極めて軽くて強い糸をリール状にし、これをロケットで静止軌道上に運んだあと、そこからリールを回して地上に糸を下ろすのである。そのあとはこの糸を何本、いや何百本も増やし、それを束ねたような形で、リニアモーターカーのような高速エレベータがよじ登ることのできる大きさと強度を備えたレール(軌道)にするというのである。
実は、このアイデアはかなり前からあり、SFの世界でも時々登場しているという。この空想上の乗り物が、最近にわかに現実味を帯びるようになったのは、軽くて強い材料ができるようになったからである。それは日本の研究者が発見したカーボン・ナノチューブである。理論上はスペースエレベータに充分な強度を備えているという。糸の重さは1メートルで8グラム程度ですむ。それでもなお、カウンターウエイトまで届くには合計10万キロもの長さが必要だから合計8百トンにもなる。スペースシャトルで何百回も往復して運ぶのは現実的ではない。そこで、最初に、20トン程度の細い(幅の狭い)2本の糸で作られる工事用の初期エレベータを作り、そのエレベータを数百回、往復することで荷物を持ち上げ作っていくのだそうだ。
このように実現の可能性が出てきたことから、米国ではスペースエレベータの完成を2018年としてカウントダウンを始めた民間企業がある。毎年の到達目標を決めたコンテストも本年(2005年)より始まっている。
その一方で、「できるわけがない」、「製造、建設、維持に要するエネルギー消費まで考えれば得にはならない」など、眉に唾をつける人々は少なくない。
しかし、過去の歴史を見ればあながち夢物語ではないだろう。人類が空を飛んだのは1903年、ほんの百年前に過ぎない。それから70年に満たない間に人類は月にまで到達した。今では毎年何百万人もの日本人が当たり前のようにジェット機で旅行している。また、髪の毛より細いファイバーを中心にもつ光海底ケーブルが国際間の通信を支えている。
学生の間で理工学部の人気がないといわれるが、未来を明るくさせる挑戦的な目標や夢が必要なのかもしれない。幸いわが国はナノテクを始め、要素技術や製造技術の面で世界のトップを走っている。確かにスペースエレベータに疑問は多いが、もし実現したら、太陽光発電や宇宙工場、それに、宇宙旅行などその応用は限りなく広がる。
そう、それは子供の時に夢で見た「ジャックと豆の木」なのかもしれない。
スペースエレベータについては、佐藤敏雄さんによる以下の解説が詳しい。 (12月18日)
http://www.k-unet.org/member/how/s&s/ss25.html
図はElevator2010のサイトより http://www.elevator2010.org/site/primer.html