昨今のTV業界はライブドアや楽天の攻勢にあって大きく揺れている。新規参入者は「TVとITの融合」を標榜しているが、その考え方自体は別に今に新しいものでない。WEBでの番組紹介や一部番組でのインターネットとの連動などは前からやっている。ただ、韓国で可能になっているように、放映したTV番組をインターネット経由で後日視聴できるという仕組みは、複雑きわまりない著作権問題などのため始まっていない。
しかし、こうしたブロードバンドによる番組配信の問題を別にしても、広告料収入に依存してきた民放経営の足元が揺らいでいる。ハードディスク(HDD)レコーダの急速な普及により、視聴者のTVの視聴スタイルが大きく変化しているからだ。HDDレコーダではVTRのようにいちいちテープの入れ換えをしなくてすむし、巻き戻しや早送りでのイライラがない。加えて、電子番組表を使えば予約が簡単である。そこでTV番組はまずは貯めておいて、後で好きな時に視るというスタイルが増えている。その際、民放にとって恐ろしいのはCM飛ばしであろう。ある調査によると、HDDレコーダ利用者の実に8割がCMをカットして視ることが多いという。
ついこの間、登場した感があるHDDレコーダだが、今年、日立の新製品登場により、その容量がついに1テラバイトの域に達した。 このHDDは超小型化の実現により、視聴者の時間軸の自由度だけでなく、場所の自由度も変えつつある。
アップルは今月始め、PCでダウンロードしたビデオを最大150時間保存でき、2.5インチのディスプレイで視られる新製品を発表した。iPodシリーズで快進撃のアップルの商品開発力は依然健在だが、この新製品の本場米国での評価は元祖iPod登場時に比較して決して高くはないようだ。米国人にとって音楽は、いつでもどこでも聴きたい、まさに生活の一部であるのに対して、テレビは家庭の大きなTVで見るものなのである。まして車社会の米国では、車中に音楽はなくてはならないがTVはそうではない。
むしろアップルにとって最も期待できる市場は、米国ではなく日本や韓国なのではないか。日本では電車通勤が普通であり、裕福で新しい物好きの若者たちが多い。iモード、着メロ、着ウタなどのケータイのアプリケーションはいずれも日本発である。この流れから想像すると、ipod普及の起爆剤になるコンテンツはポップミュージックのプロモーションビデオではなかろうか。1つが数分間の長さであり、質も極めて高い。提供者側は楽曲販売とのシナジーが期待できる。 一方、我々が期待するのは教育用のビデオである。TV番組でも教育的なクイズがはやりであるが、携帯ビデオ端末でも個人のニーズに応じた教育ビデオが視たいものである。
垂直磁気記録方式という全く新しい高密度記録方式の製品登場 も間近いHDDはPCだけでなくテレビの世界も変えていく。 (10月23日)