90年代の新卒大量採用時代に、生産性や創造性を向上させる目的で大手企業が相次いで導入したフレックスタイム制度をとりやめる企業が目立っている。 昨年、富士通やシャープが廃止したのに続き、本年4月には、キャノンが廃止にふみきった。 キャノンは、圧倒的な特許保有数や新しい生産方式(セル生産方式)の採用にみられるように、わが国で最も創造的な企業である。それだけに他社に与える影響は少なくないだろう。
報道によると、技術者同士が情報共有して開発効率を高める運動を始めたところフレックスタイム制に起因する作業の遅れが目立ったため廃止に至ったとのこと。 富士通では、会議等で全員の意思疎通をとるのが難しかったことが問題にされたようである。
しかし、いささか合点がいかない。 なぜなら、これらの企業は自社のIT製品を活用して意思決定の迅速化とか、知識やノウハウの共有化を進めている企業ではないか。 こうした会社がフレックスタイム制の運用に行き詰まり、もとのセブンイレブン型のカイシャに戻るようなことがあってはならないと思うのだが。
米国などではフレックスタイムは当たり前、近頃はワークライフバランスといって、より多様な勤務時間制度を進める動きにある。 どうしてわが国ではうまくいかないのだろうか。 思うに次のようなことが考えられる。
一つは、制度の目的が社内で充分理解されていないという点である。 フレックスタイムは時間管理を大幅に本人の裁量に委ねることで生産性や創造性を向上させるものだが、わが国では、単純に出社時間が遅くていいと考えたり、ワーカの権利とみなす傾向があるのではないか。 多くの企業はコアタイムを設け、、始業と終業は各人が決められるとしている。 これが10時から15時までの場合、早朝出勤して15時に退社も可能なのだが、実際にはこのような社員はほとんどいない。 皆が10時に出社して夜遅くまで働くというワンパターンである。 つまり、従来より単純に1時間程度遅く会社に出てくるということになる。 一方、管理者の側はそもそもフレックスという概念がない従来型勤務をしている。 それでも業績管理が成果主義型にうまく移行していれば問題は少ないのだが、肝心の目標管理制度は形骸化し、実態は旧態依然の目視管理の習慣が抜けないから、部下に対して不満がたまる。 オフィスがオープンフロアであるのも具合が悪い。10時近くになってどっとオフィスに現れる部下たちをだらしないという風に見てしまう。
あるいは、そのうえの上司から質問が飛んできた時、頼りになる部下がいないと「フレックスタイムのせいで」とつい言い訳してしまうことはないか。 つまり、悪いのはフレックスタイム制度でなく、制度の運用や管理者のマネジメント能力の側に問題があるのである。ただ、キャノンでは育児や介護などで本当に必要な社員には個別に勤務時間を決められるようにしたり、裁量労働制の採用を検討しているとのこと。 こちらは少し安心材料である。
いづれにしても、制度の導入目的をよく理解せずに一時の流行で右にならえしてしまったり、その後の運用が杜撰になっていると、割りを食うのは真面目なワーカになるから気をつけなければならない。 (9月8日)