北欧フィンランドは我々にとっては遠い国であり、いささかなじみが薄い。 森と湖とサウナがまず連想されるが、近年、絶好調の国として有名である。 例えば、この国に本拠をおくノキアは、ほんの一昔前までは片田舎の製紙会社にすぎなかったが、今や世界最大の携帯電話メーカである。 マイクロソフトのウインドウズに対抗できるオープンソースのOSのリナックスは、フィンランドのリーナス・トーバルズが開発したものである。 フィンランドの面積はほぼ日本と同じであるが、人口は約5百万人と東京の人口の半分ほどに過ぎない。
このように自然豊かな小国というイメージであったフィンランドが、ハイテクで成功を収めているのはなんでだろうと誰しも疑問に思うに違いない。 最近の報道などによると、その理由の一つが教育改革にあることは疑いのないところである。 OECDによる世界の15歳児の学力テスト調査によると、フィンランドは、堂々世界第一位に輝いた。 最近のNHKテレビの番組は、フィンランドの中でも最も成績のよかった学校(オーヨーマ中学校)での取材をまじえて、その理由を分析していた。
この学校では、時代を先取りした新しい形態を多く採用している。 その一つは選択科目制であり、もう一つはプロジェクトの多用である。 地理の授業では、ラテンアメリカの国を例にとって、その国が豊かか貧しいか、その原因は何かということをグループ学習によって考えさせるものだった。 自分たちで仮説をたて、関係する情報を収集し、それを編集するという相当難度の高い課題である。 そのあとで自分たちで調べたことを皆の前で発表する。 決まった答えはない。 教科書はなく、先生が工夫した独自教材を使っている。 この授業はこわもての先生が担当であったが、その外見のせいか、「日ごろ注意していることは何ですか」との質問に対して「子供たちにプレシャーを与えないこと、リラックスさせて自発的に気づかせることを重視している」と答えていた。 教科書の暗記は簡単だが、意味がないという。
また、学内には個々のレベルに応じてきめ細かいサポート体制が整備されている。 生徒がみずから進んで学習しやすいようにあちこちに自由スペースがある。 専門のコンサルタントのところにいけば、子供たちの色々な悩みや質問に答えてくれる。
実はフィンランドはたった10年前は、失業率が10%を越えるという未曾有の不況を経験している。 この時に現れた若きリーダは、国の再建の鍵は基礎教育の充実による教育システムと、元気のいい中小企業を育てる地域の活性化にあるとして、強力な改革を推進したのだった。 実は、基礎教育充実と地域活性化の2つは密接に結びついている。 基礎教育の充実を通じて、全国的な人材の底上げを図り、その人材が核になって創造的な中小企業が国内各地に生まれるように先導したのである。 このため教育では、知識の詰め込みでなく、継続して学ぶ能力や学び続ける姿勢を身につけさせることを重視した。 そして、教育現場や自治体に大幅な裁量権や決定権を与えるとともに、教師の研修プログラムの充実に力をいれた。 一方、国の方は何もしないというわけでなく、予算の面での面倒をみたのである。
日本からみれば、一つの県に過ぎないような小国だからできたという見方もあろう。 しかし、僅か10年ほどの間にこれほどまでに見事な改革をなしとげたという事例は、教育と地方活性化の問題に悩むわが国にとって大いに参考になる。 (7月24日)