「僕って何」で文壇デビューした小説家の三田誠広さんに「ぼくのリビングルーム」という著書がある。 朝日新聞日曜版に連載されたエッセーを中心に、著者の家族や日常生活についてまとめたものである。
そのなかで、本の題名にもなっているリビングルームをお気に入りの仕事場所と書いている。 例によってパソコンを商売道具にしているようだ。 作家には書棚に囲まれた立派な書斎がお似合いのように思うが、三田さんの場合は、書斎よりもリビングルームの方が性にあっているらしい。 というのは、著者は家族とのつながりをとても大事にしている人だからである。 リビングルームは、家族があつまって思い思いの時間を過ごすという一種のパブリックスペースと言っている。
作家という仕事柄だから可能なのかもしれない。 普通のサラリーマンが在宅テレワークをする場合には、なかなかこういうわけにはいかない。 紛失しては困る書類も多い。 周囲で家族が近くでべちゃべちゃ話していたり、テレビが鳴っていたのでは、気が散ってとても仕事どころでないという方も多いだろう。 第一、リビングルームにまで仕事を持ち込んだら、奥様はじめ家族から総すかんを食うのではないか。
しかし、それでもなお、試しにやってみる価値はあると思う。 まず、職場での上司や同僚の監視の目、電話などの騒音に比べたら、環境はなんぼかましである。 服装や姿勢も自由である。 ソファーに座って、ラップトップパソコンを、その名のとおり膝の上においてもいい。 奥様や子供たちとの会話にも割りこみができる。
勿論、各人の好み次第である。 場所や姿勢を変えるだけで気分が変わり、発想が変わるというのはよくあることである。 企画創造型業務の典型ともいえる小説家がそうなのだから、研究開発や企画業務での在宅テレワーカにはいいかもしれない。 ラップトップPCに加えて無線LAN機能があれば、リビングルームに限らず、家の中のちょっとした空間をみつけてどこでも作業ができる。 宅内徘徊ワーカである。 その際にはセキュリティ、それに奥様との調整が肝心なのは言うまでもない。(7月8日)