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    64. 「セル生産方式」

生産現場においても、労働とは何かを考えさせられる大きな変化が生じている。

T型フォードの成功以後、大量生産の工場で主流となったのはライン生産方式と呼ばれるベルトコンベアによる流れ作業である。ここでは各人が、全体の工程のうちのごく一部の工程のみを受け持つ。 自分の持ち場は反復繰り返しの単純な作業であるから、慣れれば短時間にできるようになり作業効率があがる。 作業員の移動や手の動きまでをストップウォッチで計測して、細かな動作を時間短縮することで、ベルトコンベアの長さを短縮し、スピードも速くする。 このようなライン生産方式は均一品質の少品種大量生産には適していた。 しかし、問題がないわけではなかった。 その一つは働きがいである。 明けても暮れても同じ作業の繰り返しであるから、人はじきに慣れてくる。 慣れによって自分の作業が速くうまくすんでも、それだけでラインのスピードを速くできるわけではないし、最終製品の性能が上がるわけではない。 単純な反復作業の部分は次第にロボットに置き換えられる。ベルトコンベア作業イメージ

一方、キャノンや松下などの進んだ工場で採用されはじめているのがセル生産方式である。 ここには流れ作業がない。 製品のはじめから終わりまで、つまり完成品を作るまで、一つのチーム、あるいはたった一人で組み立てを行なってしまう。 たとえば、キャノンのコピー機組み立てでは、何千という部品を間違いなく、一人で組み立ててしまうというから驚きである。 勿論、最初からそういうわけにはいかない。10人位ではじめ、慣れるにしたがって1人ずつ減らしていったという。 作業員は分厚いマニュアルを参照しながら覚え、最後はたった一人で全てを組み立てることができるようになったという。 人間の能力とあくなき向上心は我々の想像を遥かに超えるものがある。

このようなセル生産方式は完成品にも良い効果が表れるようだ。 最終製品まで作ることで製品に責任や愛着が生まれるので、これが性能になって表れるのである。 どのチームどの人間が作ったかの記録も残すことができる。 チームや個人で最終製品を何台作れるかの差もついてくるだろう。

生産現場においてさえ、個人の知恵と自発的な能力向上の意欲を最大限に引き出す工夫がされているのである。 ましてアイデアや知識の生産場所であるオフィスにおいて、同じようなことができないわけがないのである。 (6月11日)