政府のIT戦略本部が推進しているe-Japan戦略に関して、最近、「重点計画2003」の骨子が発表された。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai18/18gijisidai.html
DSLの急速な普及によってブロードバンドインフラについては、ほぼ計画どうり進んでいるが、利用面やソフト面についてはまだまだである。 そこで今回は、先導的に取り組むべき分野をあげ、実現すべき目標、そのための方策、課題について示していることに特徴がある。 これらの分野は、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの7分野である。
中小企業金融など、わが国経済が抱える重要課題への即応とともに、IT化の恩恵を日々実感できるような我々の日常生活に密着した分野を掲げていることは妥当であろう。 そのなかで、我々が特に注目しているのは「就労・労働」において、テレワーク人口の拡大を数値目標をあげて示している点である。
国のIT基本戦略のなかで、テレワーク人口が言及されたのはおそらくはじめてだ。 現在、なんらかの形でテレワークを行なっているのは約6%といわれるが、7年後の2010年に、これを20%に増加させるという目標である。国の政策として是非、実現してほしいものである。というのは、テレワークの普及促進によって、我々が直面する多くの国民的課題をかなり解決できると思われるからである。
第一は、わが国経済にとって最大の課題である国際競争力の回復である。近年の国際競争力の低下の一因として、ホワイトカラーの生産性が低いことが指摘されている。グローバルな競争環境下においては、他と異なった新たな知的価値を生み出すもののみが生き残る。 全員集合型のオフィスで、時間の多寡により就労を管理する形態は、画一的な作業には適当かもしれないが、自律的な思考やユニークなアイデアを育む創造的作業には不適当である。
第二は、少子高齢化への対応である。わが国の合計特殊出生率の低下は、きわめて憂慮すべき状況にある。現在、1.32と世界最低レベルであるが、1.1位にまで低下しても不思議はないとの予測がある。若者人口の急激な減少は消費の減退と国民活力の低下をもたらす。女性の労働力率と合計特殊出生率には高い相関関係があることから、女性の労働力化を高めると同時に、子供を安心して産み育てられる社会を早く実現すべきである。 現在、企業に働く男子が育児休業をとることは極めてまれで勇気がいることであるが、在宅テレワークの普及によって、夫婦間での育児の分担が当たり前になる環境が整えられる。
そのほか、地域活性化、地球温暖化などの環境問題、それに大地震等への災害対策などの面においてもテレワークは優れた効果がある。勿論、個人の側にもメリットがあるが、仕事と家庭のバランスをとるなかで、子供の教育や地域の問題に目を向けることができ、その結果、国全体が活力をとり戻す効果があることを重視したい。
しかしながら、テレワークの導入には、企業や個人の側で色々のハードルがあることがわかっている。労務管理といったソフト面での問題やオルタナティブオフィス確保といったハード面での問題がある。労働基準法などの法制度の改善や、公共テレワークセンターの設置、導入企業への税制面の優遇などによって、これらのハードルを下げる公的支援が必要である。 経済社会に先に述べたような大きな恩恵があるのだから政府が先頭にたって、普及促進にむけた取り組みを行なうべきであり、今回、その姿勢を示したことを評価したい。 性能と価格の両面において世界最高水準の情報通信インフラをもつことが確実となった現在、これを経済活性化と生活の質的向上に役立てるべく、目標達成にむけた具体的な取り組みが行なわれるよう期待したい。 (6月6日)