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    57. 「IT機器のユニバーサルデザイン」

最近、関根千佳さんという方が書かれた「誰でも社会」へ(岩波書店)という本を読み、感銘を受けた。 関根さんは、ユーディットという会社を興してパソコンや携帯電話などIT機器のユニバーサルデザインを提唱・推進されている女性である。

IT機器をはじめ、家電製品、銀行ATMなどで、日頃、使いづらさを感じておられる方は多いと思う。 そう感じるのは何も我々シニアだけではない。 共用品推進機構による調査によると、機器の機能や使用方法のわかりやすさへの不満が若者にも多いとのこと。 最悪なのはパソコンで、24歳以下で半数以上、65歳以上では実に8割もの人が不満を感じている。 一方、ほとんど難しさを感じない日用品では年齢差がほとんどない。 つまり、ある人に使いやすいものは、年齢や性別に関係なく使いやすいのである。 そこでユニバーサルデザインの出番である。 ユニバーサルデザインとは、あなたにも私にも、誰にでも使いやすいように設計するという概念だ。 けっして高齢者や障害者のみを対象としたものでない。誰でも社会へイメージ

そうではあるが関根さんによると、ユニバーサルデザイン成功の秘訣は、障害者や高齢者を考慮してデザインすることにあるようだ。 なぜなら彼らや彼女らが使いやすければ、他の人にとっても使いやすいことが多いからである。 さらにいえば、障害者や高齢者の意見感想は、新商品を生み出すための宝庫なのである。 こうした例は過去、枚挙にいとまがない。 以下は、この本からの引用である。

「電話はグラハム・ベルが耳の聞こえない妻のために「音の聞こえる道具」として作ったものである。タイプライターは目のみえない人が字を書くための道具として生まれた。 ライターは片手の兵士がたばこに火をつけるためのものとして生まれ、音声認識は頸髄損傷者のワープロとして開発されたものである。 ウォッシュレットは、初めは病院のニーズから生まれた。」

関根さんは、勤めていたIBMを辞め、自分で会社を興した。 その理由の一つに、通勤の問題があったとして次のように書いている。 「毎日、往復三時間以上の満員電車が苦痛になってきた。この通勤に耐えられる屈強な人間しかいない都心のオフィスで、いったい日本全体のユーザーを理解できるのか? 高齢者や妊産婦、こどものニーズを汲み取れるのだろうか? ネットワークにつながれば、かならずしも会社に毎日通勤する必要はないはずなのに」

確かに、まだまだわが国の都市機能は健常者の視点で作られている。そして我々生活者の製品を設計するのは都心のオフィスで働く健常者、とりわけ20代から30代の男子がほとんどである。 畢竟、できる機器は彼らの目で見、彼らの頭で考えたものになる。

これからのIT機器は、だれにも優しく(易しく)、人をしあわせにするものであってほしい。 メーカの開発担当者はこの本から得られることが多いと思う。 また開発担当者に限らず、皆さんにも一読を是非お勧めしたい一冊である。(5月22日)