ADSL回線の普及が急速に進んでいる。 総務省の発表によると、本年2月末現在、全国のADSL加入者数は650万を突破した。 前年同月は207万であったから、1年間で実に3倍以上の増加となっている。
諸外国との比較においても、わが国のブロードバンド普及率はすでに米国を追い越し、韓国などの先頭集団に追いついてきた。
ADSL普及の最大の理由には事業者間の競争がある。 ことにヤッフーBBの参入によって価格破壊が一挙に進んだことが大きい。 加えて過去、NTTが独占時代に築きあげてきた電話網が都合よくできている点も見逃せない。
ADSLはNTT電話局までの既存電話線を使うから、その品質の良否とともに、ADSL事業者がNTT電話局内に接続用設備(DSLAM)を設置できるかが問題であった。 実はNTTにとって現在の展開は全くの想定外だったのである。 NTTはISDN化と光ファイバー化に多大な投資をしてきたので、この計画と相容れないADSLの導入には極めて消極的だった。 このためにブロードバンド化の出だしでつまづき、米国はおろか韓国にも大きく水を開けられてしまった。 しかし、NTTも時代の趨勢に抗しきれずADSL導入に踏み切る。 すると、独占によって築かれた全国電話網が有利な環境となり、競争事業者の参入とあいまって堰をきったようなブロードバンド化が始まるのである。
有利な材料というのは次の点である。 ヤッフーBBのようなADSL事業者は、電話線が出入りしている電話局(加入者局)の内部に接続用設備を設置するため、電話局所有者との交渉が必要になるが、わが国ではNTTとだけやればすむ。 また、各局舎の設備やレイアウトがバラバラだと、実際の設備設置の際にも余分な時間がかかるが、わが国はNTT標準で作られているから大丈夫である。 典型的ないつくかの局舎で設置可能であれば全国津々浦々で設置可能ということになる。 米国ではそうはいかない。たった一人で運営するような会社も含めると電話会社の数が1千にも上り、設備もレイアウトも千差万別であるからだ。
加入者までの電話線(銅線)の性能も問題である。 日本ではこれもNTT標準で敷設されているので特性がわかっている。 加えて、わが国では収容局から加入者までのケーブル距離が比較的短い。 距離が長くなると信号レベルが急激に減衰するため、伝送路の雑音に打ち勝つには通信速度を落とさなければならなくなる。 わが国では、ADSLがその性能を発揮できるといわれる加入者局から5Kmの距離に約9割の加入者が含まれる。米国ではそうはいかない。
加えて他サービスからADSLへの移行希望をもつ潜在加入者の総数の多寡も事業者にとって大きな関心事である。これまでインターネット接続に使用してきたダイアルアップ回線との比較、ブロードバンドの対抗馬であるCATVの普及度が大きなファクターとなる。 これらについてもわが国のADSLが米国と比べ、極めて優位なポジションに位置していたのである。 (3月25日)