最近、先進的な企業のオフィスはノンテリトリアルとかフリーアドレス席という方式を採用し始めている。 自分固有の席が決まっておらず、どこに座ってもいい仕組みである。 自分用の荷物や書類は、キャスターつきのキャビネットに全て収容しているので、座る座席までそのキャビネットを持っていって仕事をする。
誰が座ってもいいから机と椅子は課長もヒラも同じタイプである。多くの場合、自分専用のラップトップ型パソコンを「蛇口」に繋ぐと、インターネットやイントラネットにアクセスできる。電話もちゃんとその席に転送してくれる賢いものでなくても携帯電話で受けられるから、座った席が即、その日のオフィスになるのである。
このようなオフィスの利点はいくつかある。 ひとつは全体スペースが削減できること。営業など外回りが多い部門では日中の在席率が低いから、人数全体に比べて座席数を少なくすることができる。 自分専用の書類を極力少なくするペーパーレスにすることで、キャビネットの個数が減ることによるスペース削減もある。 更に大きな効果は業務のIT化が否が応でも促進されるため、知識の蓄積と共有化が進むということである。
半面、懸念も多い。ことに自分専用の場所がなくなることに対する不安や恐怖である。
課長もヒラも同じ机や椅子というのはモティベーションが下がるのではとの指摘もある。大抵どこの会社もランクがあがると椅子に肘掛がついたり、カバーの質が良くなったり、はたまた机が一回り大きくなったりする。 ささやかではあるが、サラリーマンにとって大きな働き甲斐ではないかというのである。
これらの不安に対する一つの答えを一橋大学の米倉誠一郎教授が最近とあるセミナーで話してくれた。 それはフリーアドレスを導入したNTTドコモでの例である。
なんでも導入前には8割の人間が反対意見だったが、半年もすると8割はフリーアドレスでいいと答えているとのこと。 更に良い点は業務効率が上がるらしい。自席があるとまず座ってお茶を飲みながら何の仕事をしようかとおもむろに始めるが、フリーアドレスでは、通勤電車の中で仕事の段取りを考えるようになるとのこと。
NTTドコモというITが進んだ会社であり推進者側の弁でもあるから話半分に聞かなくてはと思うが、多くの真実があるのだろう。社員のITリテラシーや業務フローの整備などいくつかの前提条件があり、どの企業でも真似ができる話でないのは事実だが、「うちの会社にはとても」というほどの難物でない。一般サラリーマンの適応能力は中間管理者の予想以上に高いのである。案ずるより生むが安しである。 (3月13日)