テレワークの社会的なメリットとして危機管理の面も見逃せない。最近の韓国地下鉄火災や米国クラブ火災もそうであるが、人が集中するところには大事故やテロなど人災リスクが潜んでいる。 東京のような巨大都市がこれらに襲われた時、計り知れない人的損害と経済損失が生じることは、ニューヨーク貿易センタービルでのテロ事件でみたとおりである。
世界貿易センタービルには多数の金融機関が入居していた。まさに世界金融の中枢であり、何より米国の象徴ともいえるビルであったから、世界経済はテロの後遺症に未だに悩んでいる。あのような大規模高層ビルの一箇所に集中して働くようなことがなかったら悲劇は少なかったであろうにと悔やまれる。 ただし、世界経済の生命線である銀行間決済停止という最悪の事態はすんでのところで避けられた。大手金融機関の多くは対岸のスタッテン島などにバックアップ用のコンピュータ設備を運用していたためである。 中枢機能ををつかさどる施設では、このように遠隔地でのバックアップや機能分散は必要不可欠である。
わが国で最も心配されるのは地震である。日本列島は地震の巣の上にあるから、一定期間をおいて巨大地震に襲われるのはわが国の宿命である。 地震予知の技術は進んではいるが、発生場所や発生時刻の特定が極めて困難であることを関西淡路大地震で思い知らされた。
危機管理の観点からみると一極集中型は危うい。国家機能や大手企業の中枢は東京に一極集中しており、仮に東京に巨大地震が起こったと考えるとぞっとする。 建物自体は関東大震災クラスの地震に耐えられるにしても、都市機能はあまりに複雑化しており、予期しない事態やパニックの可能性は否定できない。
大手企業は施設のバックアップなどの機能を備えているであろうが、社員の勤務場所を分散化、あるいはフレキシブル化しておくことは危機管理面でも強いといえる。
大災害ということでなくても、いつでも連絡がとれる補助的な勤務場所があることは、臨機応変の対応がとれるから企業にとって大きなメリットになる。 (3月7日)