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    111. 「エグゼンプトとノンエグゼンプト」

非定型の頭脳労働が多くなるなかで、かつて劣悪環境下の労働者の保護を主目的に制定された労働基準法が実態に合わなくなってきた。 産業構造の変化や労働の質の変化に伴って、労基法も改正につぐ改正を重ねてきたが、残念ながらパッチワークの域を脱することができず、急激な実態面の変化に追いついていない。 業務遂行の方法や時間管理を大幅に労働者の裁量に委ねるという裁量労働制も可能になっているが、制限が多く、依然として労働時間の長さで仕事を測る枠組のなかにある。 多くの知的労働の場合、時間の長さで労働の多寡を計測するという労基法の基本的な前提はもはや時代遅れになっている。

そこで、労働時間に関して労基法の適用除外の拡大を望む声がでている。 たとえば、東京商工会議所は、本年、「労働政策に関する要望」の中で、裁量労働制の見直しと労働時間などの適用除外の拡大を提言している。厚生労働省も、近く、発足させる専門研究会のなかで、現在、管理職などの一部にとどめている適用除外の対象拡大を検討するという。ベルトコンベヤでの作業イメージ

実は、時間管理等についての適用除外を広範に認めているのは米国である。 米国では、所定勤務時間や時間外労働などの時間管理の規定が適用されない勤務者をエグゼンプトワーカーといい、企画部門や設計開発部門などの非定型の業務を行なう部門では多くの労働者がこの扱いになっている。 日本では、いわゆる管理者がこのエグゼンプトワーカーの扱いに対応する。

勿論、雇用や就業における環境が日米では相当異なっている点は無視できない。 米国では、採用の際に、賃金などの待遇とともに、仕事の内容が職務記述書(ジョブデスクリプション)によって定められている。 文字通り特定の職につくという意味の就職であるから、採用後に職務を越えて部門を変わることは少ない。 ただし、社内の別の部門に空席ができた時はジョブポスティングといって、職務内容と待遇が社内に掲示されるので、希望者はこれに応募するような仕組みをとっている企業は多い。

終身雇用型で、部門を越えた人事異動が頻繁におこる日本とは違う面がある。わが国では就職より就社であり、どの職務、職場につくかは、まさに会社の意のままというのが大方のスタイルである。 各職務についても職務記述書のような明確なものはなく、多くは職能基準書という形のアバウトな基準になっている。加えて、最近のわが国では、裁量労働制のような柔軟な勤務時間の導入を賃金を抑制する意図で導入される場合があるので、非雇用者側での警戒感が強い。 労組側は仕事の質が変化している状況は認めながらも、裁量労働には慎重な姿勢をとっているのはこのためである。

しかしながら、国境を越えた競争、加えて少子高齢化が急速に進行する今日、従来の労働時間管理を後生大事にしていたのでは、米国流のマネジメントスタイルを身につけている中国やインド等の新興企業との競争に勝つことはできないだろう。 いかに知的労働の生産性を上げ、それに正当に報いるかが問われている。ことに、新しい商品やサービスを生み出す能力をもつ若年層のやる気をいかに引き出すかが課題である。 エグゼンプトの範囲の拡大が必要な時期にきている。(10月23日)