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    109. 「カンバン方式とインターネット」

カンバン方式は、トヨタ自動車が確立し、今や経営学や生産現場の教科書にきまって登場する工場の生産システムである。 これとインターネットは、一体、どんな関係があるのだろうか。 実はこの2つには共通した概念がある。 それは自律分散である。 中央集権型あるいは上位下達の計画主導型のシステムと対極をなす概念である。

インターネットの最大の特徴は、世界中に分散したコンピュータが自分の責任分の仕事を果たすことで、ネットワーク全体が目的を果たすということだろう。  これによって、安全性が高まると同時に、技術や使い方が日々、進化し発展するのである。 冷戦時代の核攻撃の危険を避けるために、コンピュータ間の通信ネットワークを分散型にすることで、いくつかの箇所が破壊されても、支障なく通信ができるように考えられたのがインターネットの原型である。  概念的にはしばしば蜘蛛の巣形で示されるそのネットワークは、今では通信事業者による階層型ネットワークになっている。 また、途中の伝送をつかさどるコンピュータはルータという専用装置に置き換わってはいるが、基本的な思想はそのままである。 各ノードのルータやコンピューターは、どこか上部からの指示に従って仕事をするのではなく、自分でやるべき仕事を判断して、これをしっかりやったら 「あとはお願いね」と言って、次のコンピュータに処理をまかせるのである。  。指導員と相談する人イメージ

カンバン方式では、ラインの各工程が、エンドユーザに近い下流側の前工程から知らされる需要に基づいて生産が行う仕組みになっている。 ここでは、さしずめインターネットのパケットにあたるのが「かんばん」であり、これを通じて、各自が自分の仕事をするとともに、需要を上流工程に伝送するわけである。 需要におかまいなく、予め決められた上からの計画に従ってものを作るのではない。 つまり、各工程がかんばんに基づいて自律分散して自分の責任分の仕事を果たしている自律分散システムなのである。

ただし、インターネットと大きな違いもある。 それは、カンバン方式の場合、各工程は別々に異なった作業をしており、全体は同期して動いている。 一方、インターネットのIPのパケットレベルでは、各ノードは類似の働きをしており、全体が同期して動いているのではなく、各自勝手に動いているともいえる。

先般の新日鉄工場やブリジストンの火災、あるいは、SARSのような全世界的な生産システムへの影響があると、このような在庫を極端に圧縮した同期生産方式が裏目になることがある。 まさかこのような大工場が止まるとは想定外であったが、この「まさか」の事態も起こるようになった今日、核攻撃への防御として考えられたインターネットの長所が多少の参考になるかもしれない。 (10月17日)